帝京大学文学部社会学科
教授
渡辺浩平 先生
京都大学工学部衛生工学科卒業後、同大学大学院文学研究科にて地理学を学ぶ。ケンブリッジ大学に留学。地球科学地理学科大学院にてM.Phil、Ph.D.の学位を取得。大学時代から現在にいたるまで一貫してごみの研究を続けている。
自然界に存在しない人工素材の急増と生活様式の変化のため、ごみは複雑化している。渡辺教授は、さまざまな国でごみの量や中身を分析し、詳細な組織調査によって質を把握。また、いろいろな材質のリサイクル度合いなどを推計する分析も行っている。
人工物質の廃棄物は、自然の浄化能力に委ねられる段階まで人間が処理することが最低限の責任。日本でも、大量生産、大量消費、大量廃棄型社会からの脱却を念頭に「循環型社会形成推進基本法」が2000年に施行され「拡大生産者責任」が加わった。
購入したおにぎりをひとつ廃棄すると仮定する。それは、米などを生産から調理加工、流通のプロセスにかかった人やモノの経費や労働をすべて無駄にしたということになる。では、次にひとつでも少なく買えば解決するかというと、必ずしもそうではない。
小売店ではそもそも品切れをおこさないよう仕入れるため、残ったものは廃棄される。製造業では急な追加注文に応じられるよう過剰生産し、何事もなければそれも捨てられる。こういった流通システム全体を通して見ていないため、全体の廃棄量が把握できていない。結果的に生産者が農地を広げようと熱帯雨林伐採などによる農地確保が生じている。
「食品ロス」という和製英語は、英語のフードロスとは意味が異なる。国際的には食品廃棄物はフードロスとフードウェイストからなり、生産者から消費者までの各段階で取り組みが進められている。各国との比較や良い事例の転用導入などで行動の精度を高めていくためにも、用語の定義の標準化も必要。
「捨てない」を実現するためには3Rの中でも余地の大きいリデュースとリユースを進めることの意識が必要(リサイクルはかなりのエネルギーが必要であり、大量消費、大量リサイクルでは環境負荷は減らない)。ごみの課題を解決することは、望ましい物質循環のあり方を追求し、新しい社会を創造することにつながる。ごみの中には、SDGsに貢献できる多くのヒントが眠っている。