帝京大学理工学部機械?精密システム工学科
准教授
池俣 吉人 先生
名古屋工業大学大学院博士後期課程修了。大学院から受動歩行ロボットの研究に取り組み、同大学の特任助教に。2009年にはチームで開発した受動歩行ロボットが13時間を超える連続歩行を実現し、ギネス世界記録?に認定。2012年から現職に就任。
受動歩行ロボットは、航空工学の専門家だったカナダのタッド?マクギア博士によって誕生。数歩歩くと崩れ落ちるものだったが、世界に与えたインパクトは計り知れず、池俣先生も博士の研究動画をきっかけに二足歩行の原理を追求する研究に没頭していった。
下り坂にボールを転がすと加速するが、人間は一歩ごとに加速しないよう制御をかけて一定の速度で歩けるよう「安定化」をはかっている。池俣先生は、長時間の歩行のためには、一定のリズムで足を出し続ける「平衡点」を作り出すことと、この「安定化」がポイントであることを導き出した。
その後苦しい迷走状態が続くも、たまたま目にした“複雑に考えず単純に考えろ”という趣旨の言葉をきっかけに状況を打破。歩幅が一定になるよう制約して歩かせることで、数百歩歩けるロボットを開発。2005年には、平衡点の生成と安定化の原理を導くことに成功し、2009年には13時間を超える連続歩行でギネス世界記録に認定。
先駆者のマクギア博士も、一定の速度で坂道を転がる糸車のような構造体をつくり上げるなど、シンプルな構造物を用いた分析を積極的に行なっている。最終的なロボットの機構は複雑なものだが、原理が判明すれば大きな価値の発見につながり、確実に前進できる。
原理の追求は、次の原理への入口を開くことでもある。池俣先生の研究は、高齢者や障がい者の歩行支援や歩行支援器具の開発など、科学の発達にもつながる。それは17のゴールを追求するSDGsにおいても同じ。原理を追求するプロセスで蓄積されたデータや知見は、文明を前進させる力強い歩みになりうる。